日本「アジア英語」学会
The Japanese Association for Asian Englishes

日本「アジア英語」学会の目的と課題

創設者 本名 信行

(青山学院大学名誉教授)

英語はアジアの言語です。アジアにおける英語の国際的普及は、アメリカ人やイギリス人などのネイティブ・スピーカーの英語がそのままのかたちで世界中に広まったということではなく、ノンネイティブ・スピーカーがそれぞれの歴史的、社会的、文化的必然性に合わせて、いろいろな方法で英語を使うようになっている姿を指しています。

このように、英語がネイティブ・スピーカーの枠を越えて、ノンネイティブ・スピーカーを含む多くの人々の異文化間コミュニケーションの手段になったということは、英語を英米文化から切り離して運用することが可能になったことを示しています。そして、これは英語に新しい国際的な役割を与えることに繋がるわけです。

アジアの人々は一般に英米文化を学習するために、そしてネイティブ・スピーカーと同じように話すために英語を勉強しているわけではありません。むしろ、自分が属している民族と文化を意識し、自分を国際的な場面で表現する道具として、英語を使おうとしているのです。この動機傾向は、最近の中国やベトナムでの英語熱についても顕著にあてはまると考えられます。

アジアで旧英米植民地が独立国家として発展するなかで、現地の人々は英語をどう取り扱 うかについて頭を悩ませてきました。彼らは最初は英語を使うと旧宗主国の文化を引き継ぐことになり、独自の国民性を育成できないのではないかと危惧していました。しかし、彼らは自国の社会的文化的状況に合った独自の英語パターンを創造することによって、この問題を解決できることに気づいたのです。

このようにして、インド人はインド人らしい「インド英語」、シンガポール人はシンガポール人らしい「シンガポール英語」、フィリピン人はフィリピン人らしい「フィリピン英語」を、それぞれ話すようになってきました。そして各変種には、発音、語彙、文法にかなりのクセがあるのです。

それではお互いに通じないではないかという疑問が生じます。しかし、よくみると、これらの変種には差異よりも共通項のほうがずっと多いことがわかります。英語の多様性を肯定的に評価すれば、相互理解を可能にする媒体を発達させることができるはずですし、日本人もそのような努力を積極的にすべきであると考えます。

以上のことを考えると、本会の意義は明瞭です。本会ではさまざまな研究活動を通して、上記のようなテーマを本格的に追求したいと考えます。私たちは常に有意義な問題意識をもち、本会を民主的に運営しながら、相互啓発の場として発展させていきたいと考えています。

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